イスラム絨毯の系譜

マムルーク

マムルーク絨毯は、イスラム美術のルネサンスを象徴するラグです。預言者ムハンマドの時代から今日に至るまで、イスラムは単なる宗教にとどまらず、生活全体を形づくる包括的な世界観であり続けました。その精神は美術にも深く反映され、秩序、対称、幾何学によって構成される独自の美意識が、マムルークのラグに鮮やかに結晶しています。

槍を持つ三人のマムルーク騎馬像
過去と現在

歴史

なぜある時代、ある社会がこれほどまでに豊かな芸術を花開かせるのか。その鮮やかな答えのひとつが、カイロを本拠としたマムルーク朝の時代にあります。彼らはトルコの山地からヌビアの砂漠、地中海東岸からアラビア海に至る広大な世界を支配し、その政治的秩序のもとで壮麗な文化を築きました。

西洋史で言えば中世にあたるこの時代は、イスラム世界にとっては再生と開花の時代でもありました。建築、写本、金工、ガラス工芸と並び、ラグもまたその精神を映す重要な芸術であり、秩序、対称性、幾何学の美が高度に結晶した表現として発展しました。

マムルーク絨毯の文様
文様・モチーフ・象徴

文様

マムルーク絨毯の意匠は、他のイスラム絨毯とは明確に異なる独自の構成を持っています。基本となるのは正方形を起点とし、その両側に細長い長方形パネルを加えることで全体を長方形へ展開する構図です。中心の正方形には、多弁のロゼットや星形、メダリオンが配され、そこから六角形、八角形、多角形が同心円状に広がっていきます。

この幾何学の連鎖は、木工や象嵌、写本装飾にも通じる宇宙的な秩序感を生み出します。中央部に寄り添うパネルには、糸杉、椰子、パピルス、抽象化された花、アラベスクなどが整然と配され、全体は万華鏡のような緊密さと静かな壮麗さに包まれます。

アンブロシウス・フランケン《最後の晩餐》に描かれたマムルーク絨毯、16世紀
色彩文化

色彩

マムルーク絨毯は、赤、緑、青を中心とする宝石のような色彩によって、イスラム絨毯の中でもひときわ印象的な存在です。限られた色数でありながら、表面には絹のような光沢感と奥行きが生まれ、色そのものが装飾の品格を支えています。

黄色には Luteolin や Isparek、補強として Dyers Sumach が使われ、Indigo はエジプトでも栽培されていました。マムルークが香辛料交易路を掌握していたことも、染料文化を支える大きな背景です。こうして、羊毛、染料、織りの一貫性を保ちながら、少なくとも一世紀以上にわたって特徴的な三色構成が維持されました。

写真:マムルーク絨毯の織り、2020年 ディヤルバクル
私たちの織りの工程

織りと制作

マムルーク絨毯は、構造面でも非常に独特です。ペルシア結び、沈んだ経糸、三本の緯糸打ち込みという構成に、アナトリア的な総ウールの骨格が交差し、他に類を見ないハイブリッドな織りが生まれました。なぜ木綿ではなく四本撚りの羊毛経糸を用いたのかはいまだ謎ですが、その特異性こそがこの絨毯群の個性を際立たせています。

また、複数本を撚らずに用いる緯糸や、正方形に近い織り組織も大きな特徴です。とりわけ S 撚り、そして SZ 撚りの糸の存在は、この絨毯が極端なまでの対称性を理念としていたことを物語っています。